Hervest 18: Other Writings ; Wailing Trigger

Neya

Neya

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男は苦悩していた。

彼は今、己の敬愛してやまない人物を手にかけようとしている。

*

 彼は、とある町工場の従業員である。昔ながらの工場が雑多に立ち並ぶ、そんな場所にその町工場はあった。「ARKS」と呼ばれる政府調査機関の近辺に位置するこの地域は、その土地柄、使用される銃火器をはじめとし、フォトンの定着に使用される媒体、身を保護する装甲の類、キャストと呼ばれる機械種のパーツにいたるまで、あらゆる物を供給している、そんな地域であった。彼は、そんな地域の、主に銃弾を製造する小さな町工場の従業員であった。
 彼は勤勉であった。朝は人工太陽の昇りきらぬ時分から、一日中汗と油にまみれて働いた。他の従業員達は、彼が最年少だったこともあってか、勤勉な彼を我が子のように可愛がっていた。また彼も、そんな従業員達によく応えた。
そして週末には、
「おう、お前達!今日はこの辺にして飲みに行くぞ!ほら、若いのもハンマー置いてとっととシャワー浴びて来い!今日はお前の気に入りの、あのニューマンの姉ちゃんの店に行くぞ!」
親方、と慕われているそんな工場長の一声で、町に繰り出すのがお決まりとなっていた。

**

そんな彼にも夢があった。
 銃弾の納品先であるARKS。そこに入隊するのが彼の夢だった。見知らぬ土地へ降り立ち、見知らぬものを調査し、見知らぬものに触れ、時には勇敢に困難へ立ち向かう。そんなARKSに憧れていた。
ARKS入隊への門戸は狭い。晴れてARKSに入隊するためには、厳しい試験を通過しなければならない。日中は勤勉に働き、また夜は遅くまで勉学に励んだ。仕事柄、銃火器への造詣も深く、彼の勤勉さも手伝って、数年の後、彼は晴れてARKSへの入隊を果たした。
念願の夢を果たした彼を、工場長をはじめ、他の従業員はまるで自分のことのように喜んだ。
「お前さんならきっとやれるって思ってたぜ!」
「入用になったら、ここの銃弾(やつ)を使ってくれよ!」
「お前さんも忙しくなるだろうが、たまには顔出してくれよな!」
餞のライフル銃と一緒に、満面の笑顔をもって彼を送り出した。彼は早速ARKS式の敬礼をもってそれに応えた。

***

それから数年の月日が流れた。
持ち前の勤勉さで、彼は瞬く間にレンジャーとして頭角を現していった。
そんなある日のこと。彼の滞在するシップに警戒のアナウンスが響き渡った。
「緊急警報発令。アークスシップの1隻が、ダーカーによる襲撃を受けています。各員は直ちに救援へ向かって下さい。」
すぐに彼は腕につけられた端末で当該のシップ番号と被害地域を確認した。

彼は戦慄する。

その端末に表示されたシップ番号と被害地域は、一般市民居住シップ。彼のいた町工場がある市街地域。彼の脳裏に町工場の仲間達の顔が過ぎった。
逸る気持ちを抑え、シップに降り立つ。
街は既にダーカーの襲撃を受けていた。あちらこちらから黒煙が立ち上り、道路には激しい戦闘を思わせる亀裂が幾つも走っていた。

皆は無事だろうか。

彼は焦燥に駆られながら、工場のある場所へと駆け出した。
襲い来るダーカーの群れに怒りを込めた銃弾を捩じ込みながら、目的の場所へと駆け抜けた。

****

 その時、大地が揺れた。
周りの空気が震わす禍々しい咆哮と共に現れたのは、四足の巨大なダーカー。
頭部に溢れんばかりの瘴気を溜め込んだ瘤をつけ、全身は赤黒い鈍い光を放っている。
「ダーク・ラグネ」と呼ばれる、ダーカー達の王。この凄惨な破壊劇の元凶。
彼は憤怒に満ちた眼差しと共に、その巨大な凶事に対峙し、引鉄に指をかけた。
と、そこで彼は信じられない物を見ることとなる。
ダーク・ラグネの頭部。中央には、ダーク・ラグネに取り込まれてしまった、憐れな人間の姿。それは、彼が敬愛してやまない、工場長であった。今ここでダーク・ラグネを屠れば、今回の襲撃において被害を大幅に抑え、重畳な戦果を収める事が出来るだろう。しかしそれは、敬愛する工場長が・・・・・・この世の人物では無くなってしまう事を意味する。

彼は苦悩していた。

ダーク・ラグネの放つ斬撃をかわしながら、彼は苦悩していた。だが、このままやり過ごしていても埒があかない。ダーク・ラグネの瘴気から生み出されるダーカーは数を増し、その襲撃をかわし続けるには限界が来ようとしていた。
彼の体は、もう満身創痍と言ってもいい程に傷創で溢れていた。

「親方・・・」

彼は顔に垂れ落ちる血を拭い、ダーク・ラグネを見、独りごちた。



それは、偶然だったのかもしれない。
偶々、そんな風に見えただけかもしれない。
吸収された工場長の目が開き、彼を優しい目で見つめると、微笑みかけた。

「トロンベ、お前さんも立派になったなぁ。もういい。もういいんだ。さぁ、早く楽にしてくれ」

そう言っているように見えた。

それは血だったろうか、涙だったろうか。彼は顔に流れる熱いものを拭い、ダーク・ラグネに銃口を向けた。
余すところ無く手入れされ、鍛え抜かれた、餞のライフルの銃口を。















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そんなSSを妄想した、フレンドのショートカット。


※このお話は、以前ブログに載せていた、「PHANTASY STAR ONLINE 2」を題材としたショートショートです。
Posted byNeya

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